試用期間中の会社で、辞めたい、あるいは「クビになるのでは」と不安を抱えていませんか。
試用期間という言葉には、なんとなく「まだ正式な社員ではない」「こちらの立場が弱い」という響きがあります。そのせいで、辞めたいと言えない方、逆に理不尽な扱いを黙って受け入れてしまう方をたくさん見てきました。
でも、法律の考え方はまったく逆です。試用期間中でも、労働契約はすでに成立しています。会社があなたを自由に切れるわけではないし、あなたが辞める権利も正社員と同じです。
この記事では、元人事として、試用期間のルールを「辞める側」と「切られる側」の両方から整理します。判例と条文の根拠も一緒に示すので、会社に何か言われたときの確認材料としても使ってください。
- 試用期間の法的な正体(判例が何と呼んでいるか)
- 試用期間中に辞めるときの手順と、何日前に言えばいいか
- 試用期間の延長はどこまで許されるのか
- 本採用拒否(試用期間中のクビ)が認められる基準
- 入社14日を境に、解雇のルールが変わること
- 給料・社会保険・有給休暇はどうなるのか
- 試用期間で辞めたとき、失業保険はもらえるのか
- 履歴書に書くべきか、面接でどう説明するか
試用期間とは?法律にはどう書かれているか
「解約権留保付労働契約」というのが判例の理解
まず、いちばん大事なところから。
労働基準法に「試用期間」を定義した条文はありません。会社が就業規則で決めているだけの仕組みです。ではその法的な位置づけはどうなっているかというと、最高裁が判断を示しています。
神戸弘稜学園事件(最高裁 平成2年6月5日)で、最高裁は試用期間中の契約について「解約権留保付雇用契約と解される」と述べています。
①「雇用契約」=あなたと会社の労働契約は、入社日にもう成立している。
②「解約権留保付」=会社は、通常より少し広い範囲で解約する権利を留保している。
つまり「試用期間だからまだ社員じゃない」は誤りです。あなたはもう社員です。会社の解約権が少し広い、というだけの話です。
試用期間中でも、あなたは労働者として守られている
労働契約が成立しているということは、労働基準法も労働契約法も、あなたに全部適用されるということです。
| よくある誤解 | 実際のルール |
|---|---|
| 試用期間中は社員じゃないから、何も言えない | 労働契約は成立している。正社員と同じ法律で守られる |
| 試用期間中は会社がいつでもクビにできる | 客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が必要。無制限ではない |
| 試用期間中は辞めたいと言えない | 退職の自由は正社員と同じ。民法627条1項が適用される |
| 試用期間中は社会保険に入れない | 要件を満たせば入社日から加入する。試用期間は関係ない |
| 試用期間中は有給がない | 正しい。ただし試用期間も継続勤務期間に通算される |
期間の長さに法律の上限はないが、無限ではない
試用期間の長さを直接制限する条文はありません。実務上は3か月または6か月としている会社が大半です。
ただし、いくらでも長くしていいわけではありません。ブラザー工業事件(名古屋地裁 昭和59年3月23日)は、「労働能力や勤務態度等業務への適性を判断するのに必要な合理的な期間を超える試用期間は公序良俗に反し、その限りにおいて無効となる」と述べています。
試用期間中に辞めることはできる?結論と手順
結論:辞められます。2週間前に伝えれば足ります
ここが最も多い質問です。答えは「辞められます」。
期間の定めのない労働契約では、民法627条1項により、解約の申入れの日から2週間を経過することで契約は終了します。試用期間中であることは、この権利に何の制限も加えません。
「就業規則に1か月前と書いてある」と言われたら
多くの会社の就業規則には「退職の1か月前までに申し出ること」と書かれています。これ自体は違法ではありません。円滑な引き継ぎのためのお願いです。
ただし、就業規則の定めが民法627条の権利を消すことはできません。実務上は、次のように考えてください。
| 状況 | 現実的な対応 |
|---|---|
| 引き継ぎがほぼない(入社直後) | 2週間で問題になりにくい。就業規則より早くても実害が小さい |
| ある程度任されている | 就業規則どおり1か月前に伝えたほうが揉めにくい |
| 心身が限界に近い | 健康を優先してよい。2週間の権利を使うことに引け目を感じる必要はない |
辞めると決めたときの手順
申し出た日から2週間後以降で、区切りのよい日にします。
理由は「一身上の都合」で足ります。詳しく話す義務はありません。
日付・宛名・氏名・「一身上の都合により退職いたします」で十分です。
保険証、社員証、PC、制服など。返却リストをもらっておくと安心です。
離職票・雇用保険被保険者証・源泉徴収票・年金手帳(預けている場合)。
退職日の翌日から14日以内が目安です。
試用期間の延長はどこまで許されるのか
延長には就業規則などの根拠が必要
「もう少し様子を見たいので、試用期間を3か月延ばします」。こう言われたとき、会社は好きに延ばせるわけではありません。
延長するには、就業規則や労働契約書に延長できる旨の定めがあることが前提になります。定めがないのに一方的に延ばすことは、原則としてできません。
就業規則に「試用期間を延長することがある」という条文があるか
延長の理由が具体的に示されているか
延長後の期間が明示されているか(無期限の延長は不当)
延長中の労働条件が下がっていないか
「合理的な期間」を超えた延長は無効になりうる
前述のブラザー工業事件は、延長についても踏み込んでいます。同判決は「見習社員から試用社員に登用した者に更に6〜12か月の試用期間を設ける合理的な必要性はない」と述べ、実質的に長すぎる試用期間を否定しました。
延長を告げられたときに確認する3つのこと
「就業規則の何条に基づく延長ですか」と聞いて構いません。
何が足りないのか、何ができれば本採用なのかを具体的に確認します。
いつまでか、給与や待遇は変わらないかを書面で残します。
試用期間中のクビ(本採用拒否)はどこまで認められるか
通常の解雇より広い。ただし無制限ではない
会社が留保しているのは「解約権」なので、本採用を拒否するハードルは、通常の解雇よりは低くなります。ここは正直にお伝えします。
ただし低いだけで、ゼロではありません。神戸弘稜学園事件は、本採用拒否について「客観的に合理的な理由があり社会通念上相当として是認される場合に許される」と述べています。
| 本採用拒否が認められやすい例 | 認められにくい例 |
|---|---|
| 採用時の経歴に重大な虚偽があった | 上司と性格が合わない |
| 正当な理由のない無断欠勤・遅刻が繰り返された | 一度ミスをした |
| 指導しても改善が見られない明確な能力不足 | 指導も評価面談も一切していない |
| 重大な服務規律違反があった | 妊娠・出産・育児を理由にした |
| 業務に必要な資格が実は無かった | 有給や残業代について声を上げた |
★入社14日を境に、解雇予告のルールが変わる
ここは実務上いちばん見落とされます。必ず押さえてください。
労働基準法20条は、解雇するとき「少なくとも30日前に予告するか、30日分以上の平均賃金を支払わなければなりません」と定めています。この30日分の支払いが解雇予告手当です。
そして21条が、この予告を適用しない例外を挙げています。そのひとつが「試の使用期間中の者」です。ただし、条文にはただし書きが付いています。「14日を超えて引き続き使用された場合は予告の対象」。
| 入社からの日数 | 解雇予告・予告手当 |
|---|---|
| 入社14日以内 | 解雇予告と予告手当は不要(労基法21条4号) |
| 入社15日目以降 | 30日前の予告、または30日分以上の平均賃金が必要 |
「試用期間でクビになる確率」を気にしている方へ
この検索をする方が本当に多いので、人事の実感をお伝えします。
試用期間で本採用に至らないケースは、割合としては多くありません。会社にとって採用は高いコストで、辞めさせるほど手続きも面倒だからです。普通に出勤して、普通に指示に従っていれば、まず本採用になります。
無断欠勤・無断遅刻をしない(連絡さえすれば大きな問題になりにくい)
わからないことをそのままにせず聞く
指摘されたことを次から直す姿勢を見せる
経歴や資格について嘘をつかない
逆に言えば、これができていて本採用を拒否されたのなら、会社側に問題がある可能性が高いということです。
試用期間中のお金|給与・社会保険・有給休暇
試用期間だから給料が低いのは違法か
試用期間中の給与を本採用後より低く設定すること自体は、あらかじめ労働条件として明示されていれば違法ではありません。
ただし、次の2点は守られなければなりません。
その地域の最低賃金を下回っていないこと
労働条件通知書や求人票に、試用期間中の金額が示されていること
社会保険・雇用保険は試用期間中も加入する
「試用期間が終わってから社会保険に入れます」と言われたら、それは誤りの可能性が高いです。
健康保険・厚生年金・雇用保険の加入は、試用期間かどうかではなく、労働時間や雇用見込みの要件で決まります。要件を満たすなら、入社日から加入することになります。
| 保険 | 主な加入の考え方 |
|---|---|
| 健康保険・厚生年金 | 週の所定労働時間・月の所定労働日数が通常の労働者のおおむね4分の3以上などの要件で判断 |
| 雇用保険 | 週の所定労働時間20時間以上かつ31日以上の雇用見込みが基本 |
| 労災保険 | 労働者であれば全員が対象(保険料は全額会社負担) |
有給休暇は6か月経たないと出ない
年次有給休暇は、「6か月以上継続勤務している者であって、その期間において全労働日の8割以上出勤したもの」に10日付与されます(労働基準法39条)。
つまり試用期間が3か月の会社なら、本採用になってもすぐには有給が出ません。入社から6か月経ってはじめて発生します。
試用期間で辞めたら失業保険はもらえるのか
原則は「被保険者期間が足りない」ケースが多い
雇用保険の基本手当(失業保険)を受け取るには、被保険者期間の要件があります。自己都合で辞めた場合は、原則として離職日以前2年間に被保険者期間が通算12か月以上必要です。
試用期間だけで辞めると、その会社での期間は数か月しかありません。それだけでは足りない、というのが原則です。
ただし前の会社の期間と通算できる場合がある
ここが知られていません。過去に雇用保険に入っていた期間は、一定の条件のもとで通算できます。前職を辞めてから今の会社に入るまでの空白が短く、かつ前職の離職時に失業給付を受けていなければ、前職の被保険者期間を合算できる可能性があります。
前職の雇用保険被保険者証を探しておく
今の会社の離職票を必ず受け取る
前職で基本手当を受給したことがあるかを思い出す
ハローワークで被保険者期間の通算について聞く
履歴書に書くべきか|短期離職の伝え方
原則は書く。隠すほうがリスクが大きい
「数か月しかいなかったし、書かなくてもバレないのでは」。よく相談される内容ですが、私は書くことをおすすめします。
| 隠した場合のリスク | 説明 |
|---|---|
| 社会保険の記録から判明しうる | 年金記録には資格の取得・喪失が残ります |
| 雇用保険の記録から判明しうる | 被保険者番号は個人ごとに一つです |
| 経歴詐称と扱われうる | 入社後に発覚すると、本採用拒否や懲戒の理由になりえます |
| 自分が説明で詰まる | 職歴の空白を聞かれたときに、話が組み立てにくくなります |
面接での伝え方
短期離職は、伝え方でかなり印象が変わります。押さえるべきは「事実→自分なりの学び→次への接続」の3ステップです。
「前職は入社から3か月で退職しました」。長く説明しないほうが誠実に聞こえます。
「求人票と実際の業務内容に差があり、私の確認も不足していました」のように、自分の側の責任にも触れます。
「入社前に業務範囲を具体的に確認することの大切さを学びました」。
「今回は事前に◯◯について確認させていただきたいと考えています」。
言い出せないときにできること
直属の上司でなくてもいい
退職の申し出は、必ず直属の上司にしなければならないという法律はありません。上司が高圧的で切り出せないなら、人事部や、さらに上の役職者に伝えても構いません。
試用期間中はまだ社内の人間関係も浅く、「誰に言えばいいのかわからない」という状態になりがちです。迷ったら人事です。人事は退職の手続きを担当する部署です。
それでも無理なら、退職代行という選択肢がある
連絡すること自体がつらい、会社に行くと体が動かない——そこまで来ているなら、自分で言うことにこだわらないでください。
試用期間中でも退職代行は使えます。労働契約が成立している以上、退職の意思表示を第三者が伝えることに問題はありません。
よくある質問
まとめ|試用期間でも、あなたは正社員と同じ法律で守られている
試用期間は解約権留保付の労働契約。労働契約はすでに成立している
辞めるときは民法627条1項で2週間前の申し出。試用期間でも同じ
延長には就業規則の根拠が必要。合理的な期間を超えれば無効になりうる
本採用拒否には客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が必要
入社15日目以降の解雇には、30日前の予告か30日分以上の平均賃金が必要
社会保険・雇用保険は試用期間中でも要件を満たせば加入する
有給は入社から6か月。試用期間も継続勤務に通算される
失業保険は前職の被保険者期間と通算できる場合がある。ハローワークで確認を
履歴書には書く。隠すほうがリスクが大きい
試用期間という言葉には、必要以上に人を萎縮させる響きがあります。でも、ここまで見てきたとおり、法律はあなたを「もう社員である」として扱っています。
辞めたいなら辞められます。理不尽な扱いを受けたなら、争う余地があります。判断に迷ったら、労働基準監督署や労働局の総合労働相談コーナーで無料で相談できます。一人で抱え込まないでください。
※本記事は2026年8月時点で公開されている法令・判例・行政資料をもとに整理しています。個別の事案で結論は変わります。実際の判断は、労働基準監督署・労働局の総合労働相談コーナー・弁護士などにご相談ください。主な参照元:労働基準法(20条・21条・22条・39条)、民法627条、神戸弘稜学園事件(最高裁 平成2年6月5日)、ブラザー工業事件(名古屋地裁 昭和59年3月23日)、厚生労働省「確かめよう労働条件」。





