退職の手続きで、健康保険の次に忘れられやすいのが年金です。
会社を辞めると厚生年金から外れます。そして自分で国民年金に切り替える手続きをしないと、未納が積み上がっていきます。通知が来ないまま何ヶ月も経ってしまう方を、私は人事の現場で何人も見てきました。
ただ、ここで知っておいてほしいことがあります。退職して収入がない人には、保険料の免除制度があります。しかも失業した場合は、前年の所得が高くても使える特例があります。
この記事では、切り替えの手順と期限、そして免除の使い方を順番に整理します。お金がなくて払えないなら、放置ではなく免除を申請してください。理由もあわせて説明します。
- 退職後14日以内にやる国民年金の切り替え手続き
- 令和8年度の保険料は月額いくらか
- 失業した人だけが使える「退職特例」の免除
- 免除の4区分と、将来の年金額にどれだけ反映されるか
- 払わず放置した場合に何が起きるか
- あとから納める「追納」の期限
退職すると年金はどうなる?まず全体像を押さえる
厚生年金から国民年金へ切り替わる
会社員のあいだは厚生年金の被保険者(第2号)でした。退職すると、その資格を失います。次にすぐ就職しないのであれば、国民年金の第1号被保険者になります。
健康保険と違って、年金には「任意継続」のような選択肢はありません。20歳から60歳未満の方は、国民年金に入ることになります。
| 状況 | 入る年金 | 手続き |
|---|---|---|
| すぐ次の会社に入社する | 転職先の厚生年金 | 会社がやってくれる |
| しばらく働かない・自営になる | 国民年金(第1号) | 自分で市区町村へ届け出る |
| 配偶者の扶養に入る | 国民年金(第3号) | 配偶者の勤務先を通じて手続き |
手続きの期限は14日以内
届出の期限は退職日の翌日から14日以内です。窓口はお住まいの市区町村の国民年金担当課になります。
起算点は退職日の翌日です。
年金手帳または基礎年金番号通知書、退職日がわかる書類(離職票・退職証明書・資格喪失証明書など)、本人確認書類。
第1号被保険者への種別変更を届け出ます。
後日、保険料の納付書が郵送されてきます。
同じ窓口で申請できます。届出と同時に相談してかまいません。
保険料はいくら?令和8年度の金額
月額17,920円(全員一律)
国民年金の保険料は、収入に関係なく全員同じ金額です。厚生年金のように給与に応じて変わることはありません。
日本年金機構が公表している令和8年度の免除区分別の納付額から逆算すると、全額の月額は17,920円です。夫婦2人が第1号なら、合わせて月35,840円かかることになります。
払える人は「前納」と「口座振替」で安くなる
退職金があって当面の資金に余裕がある方は、まとめて先に払う(前納)と保険料が割引されます。
日本年金機構の前納制度には、2年前納・1年前納・6か月前納があります。まとめる期間が長いほど割引額は大きくなり、納付方法では口座振替がもっとも割引額が大きい設定になっています。また、当月分を当月末に引き落とす「早割」という仕組みもあります。
| 納付方法 | 前納の可否 | そのほかの特徴 |
|---|---|---|
| 口座振替 | 2年/1年/6か月 | 割引額がいちばん大きい。早割も使える |
| クレジットカード | 2年/1年/6か月 | ポイントが付く場合がある。割引は口座振替より小さい |
| 現金(納付書) | 2年/1年/6か月 | 金融機関・コンビニで納付できる |
| 電子納付(Pay-easyなど) | 納付書の期間に準じる | 窓口に行かずに済む |
【重要】払えないなら「免除」を申請する
ここがこの記事でいちばん伝えたい部分です。収入がないなら、放置ではなく免除を申請してください。
免除は4区分ある
| 区分 | 令和8年度の納付額(月) | 将来の年金額への反映 |
|---|---|---|
| 全額免除 | 0円 | 2分の1 |
| 4分の3免除 | 4,480円 | 8分の5 |
| 半額免除 | 8,960円 | 8分の6 |
| 4分の1免除 | 13,440円 | 8分の7 |
| 納付猶予 | 0円 | 反映されない |
失業した人には「退職特例」がある
通常、免除の審査では前年の所得を見られます。つまり去年フルタイムで働いていた人は、収入がゼロでも通らないはずです。
ところが日本年金機構は、失業・倒産・事業の廃止などが確認できる場合は、前年所得にかかわらず免除・納付猶予を受けられる特例があると示しています。
離職票、雇用保険受給資格者証などで失業を証明する
前年の所得が高くても審査の対象から外れる
市区町村の窓口、年金事務所、郵送のいずれでも申請できる
さかのぼって申請できる期間
免除は過去にさかのぼって申請できます。対象は保険料の納付期限から2年を経過していない期間(申請時点から2年1ヶ月前まで)です。
「もう払えないまま何ヶ月も経ってしまった」という方も、2年以内なら間に合う可能性があります。諦めずに窓口で相談してください。
免除の申請は、いつ・どこで・何を出すのか
制度を知っていても、申請の実務がわからないと動けません。ここを具体的に整理します。
申請は「年度単位」。1回出せば終わりではない
免除の審査は年度で区切られています。日本年金機構は「申請は、原則として毎年度必要」としています。去年通ったから今年も自動、とはなりません。
ただし例外があります。全額免除または納付猶予の承認を受けた方が翌年度以降も同じ申請を希望する場合は、継続して申請があったものとして扱われます(継続審査)。
| 承認された種類 | 翌年度の扱い |
|---|---|
| 全額免除 | 継続審査の対象(希望すれば申請不要) |
| 納付猶予 | 継続審査の対象(希望すれば申請不要) |
| 4分の3・半額・4分の1免除 | 毎年度の申請が必要 |
| 失業等の特例免除 | 翌年度も申請が必要 |
申請先は3つ。どれでもいい
| 申請先 | 向いている人 | 備考 |
|---|---|---|
| 市区町村の国民年金担当窓口 | ほとんどの人 | 切り替え手続きと同時にできる |
| 年金事務所 | 過去分をまとめて相談したい人 | 記録を見ながら相談できる |
| 郵送・電子申請(マイナポータル) | 窓口に行けない人 | 書類の不備で往復になることがある |
迷ったら市区町村の窓口です。国民年金への切り替え(第1号への種別変更)と免除申請を、同じ日に同じ窓口で出せます。
持っていくもの
基礎年金番号がわかるもの(年金手帳・基礎年金番号通知書)またはマイナンバーカード
雇用保険被保険者離職票、または雇用保険受給資格者証(失業特例を使う場合)
本人確認書類
(自営業を廃業した場合)登記事項証明書や税務署への異動届出書など、公的機関が交付する証明書
印鑑(自治体によって求められる場合があります)
第1号被保険者への種別変更届を出します。
同じ窓口で申請書を書けます。
これが失業特例の証明になります。
結果は郵送で通知されます。審査には数か月かかることがあります。
失業特例は継続審査の対象外です。
払わずに放置すると何が起きるか
将来の年金が減る
未納の期間は、老齢基礎年金の計算にまったく反映されません。免除なら半分カウントされるのに、未納はゼロです。同じ「払っていない」でも、結果がまるで違います。
障害年金・遺族年金が受けられなくなることがある
見落とされがちですが、こちらのほうが深刻です。障害年金と遺族年金には保険料の納付要件があります。未納が多いと、いざというときに受け取れなくなる可能性があります。
督促や差し押さえに進むこともある
未納が続くと、催告状や督促状が届きます。それでも放置した場合、財産の差し押さえに進む可能性があります。免除を申請していれば、この心配はありません。
あとから納める「追納」という選択肢
10年以内なら納められる
免除を受けた期間の保険料は、10年以内であれば後から納めることができます。これを追納といいます。
追納すれば、その期間は満額納付したのと同じ扱いになり、将来の年金額が増えます。再就職して余裕ができたら検討してください。
配偶者の扶養(第3号被保険者)に入れるか確認する
結婚している方は、免除を検討する前にこちらを先に確認してください。条件を満たせば保険料そのものがかからなくなります。
第3号になれるのは、配偶者が会社員・公務員の場合だけ
第3号被保険者は、厚生年金に加入している人(第2号)に扶養されている配偶者が対象です。配偶者が自営業やフリーランスなら、その配偶者自身が第1号なので、あなたも第1号になります。ここを取り違えている方が本当に多いです。
| あなたの状況 | 種別 | 保険料 |
|---|---|---|
| 配偶者が会社員・公務員で、扶養に入れる | 第3号 | 自己負担なし |
| 配偶者が自営業・フリーランス | 第1号 | かかる(免除申請は可能) |
| 独身、または扶養に入らない | 第1号 | かかる(免除申請は可能) |
| すぐ次の会社に入る | 第2号 | 給与から天引き(会社が半分負担) |
収入の条件と、失業保険をもらう場合の注意
扶養に入るには収入の条件があります。一般には年収130万円未満(60歳以上や障害のある方は180万円未満)が目安とされ、同居の場合は配偶者の年収の2分の1未満であることも見られます。
第3号の手続きは市区町村ではなく、配偶者の会社を通じて行います。
退職日がわかる書類、収入を確認できる書類などを求められます。
年金の第3号と健康保険の被扶養者は、通常セットで申請します。
受給中は扶養に入れないことがあるため、受給開始・終了のタイミングを伝えてください。
出産・育児の予定がある人は、別枠の免除がある
所得を理由とする免除とは別に、出産・育児に関する免除があります。こちらは所得にかかわらず使えるうえ、年金額が満額のまま反映されるという点で圧倒的に有利です。
産前産後期間の免除
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 国民年金第1号被保険者で、出産日が2019年2月1日以降の方 |
| 免除される期間(単胎) | 出産予定日または出産日が属する月の前月から4か月間 |
| 免除される期間(多胎) | 出産予定日または出産日が属する月の3か月前から6か月間 |
| 年金額への反映 | 保険料を納付したものとして反映(満額扱い) |
| 届出できる時期 | 出産予定日の6か月前から。出産後も届出可能 |
| 届出先 | 市区町村の国民年金担当窓口(郵送・電子申請も可) |
【2026年10月開始】国民年金の育児免除制度
日本年金機構は、令和8年(2026年)10月から国民年金保険料の育児免除制度が新たに始まると案内しています。これまで会社員(厚生年金)にはあった育休中の免除が、第1号にも広がる形です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 開始 | 令和8年(2026年)10月から |
| 対象 | 1歳になるまでの子を養育する国民年金第1号被保険者の実父母・養父母 |
| 免除期間(実母) | 産前産後免除期間に続く9か月(合わせて最大13か月) |
| 免除期間(実父・養父母) | 子の養育開始月から1歳の誕生日の前月まで(最大12か月) |
| 所得要件 | なし |
| 年金額への反映 | 保険料を納付したものとして反映(満額扱い) |
再就職したとき・自営業を続けるときの手続き
再就職したら、自分では何もしなくていい
次の会社に入社すると、その会社が厚生年金の資格取得手続きをします。第1号から第2号への切り替えは会社側で行われるので、市区町村に「やめます」と届け出る必要はありません。
自営業を続けるなら「上乗せ」を検討する
そのまま第1号を続ける方は、老齢基礎年金だけだと会社員時代より受取額が減ります。上乗せの選択肢を知っておいてください。
| 制度 | 負担 | 受け取れるもの |
|---|---|---|
| 付加年金 | 月額400円を上乗せ | 200円×納付月数が年金の年額に加算される |
| 国民年金基金 | 選んだ口数に応じた掛金 | 終身または確定年金として上乗せ |
| iDeCo(個人型確定拠出年金) | 自分で決めた掛金 | 運用結果に応じた給付。掛金は所得控除の対象 |
自分の年金記録を確認する方法
手続きが正しく反映されたか、未納が残っていないかは、あとから自分で確認できます。退職を機に一度チェックしておくと安心です。
| 方法 | 確認できること | 特徴 |
|---|---|---|
| ねんきん定期便 | 納付状況、これまでの加入期間、年金見込額 | 毎年誕生月に郵送で届く |
| ねんきんネット | 最新の納付記録、未納月、見込額の試算 | いつでもオンラインで確認できる |
| マイナポータル連携 | 同上(マイナンバーカードでログイン) | IDの発行を待たずに使える |
| 年金事務所の窓口 | 記録の詳細、過去分の相談 | 複雑なケースはここが確実 |
退職月以降が「未納」になっていないか
免除を申請した期間が「免除」として記録されているか
厚生年金の加入期間が退職日まで正しく入っているか
過去に転職が多い方は、抜けている期間がないか
よくある質問
まとめ|14日以内に届け出て、払えないなら免除を申請する
厚生年金から国民年金へ、退職日の翌日から14日以内に切り替える
令和8年度の保険料は月額17,920円(全員一律)
払えないなら放置せず免除を申請する
全額免除でも将来の年金に2分の1が反映される。未納はゼロ
失業した人は前年所得にかかわらず使える退職特例がある
免除は2年1ヶ月前までさかのぼって申請できる
免除期間は10年以内なら追納できる
未納が多いと障害年金・遺族年金が受けられなくなることがある
やることは、実はひとつだけです。離職票を持って市区町村の窓口へ行き、「退職したので国民年金の手続きと、免除の相談をしたい」と伝える。それで担当の方が全部案内してくれます。
健康保険の手続きも同じ窓口です。一度で終わります。
お金がないときほど、手続きから遠ざかりたくなります。でも年金に関しては、動いたほうが確実に得をします。払えないことは、恥ずかしいことでも、隠すことでもありません。そのための制度です。
※本記事は2026年8月時点で日本年金機構が公表している情報をもとに整理しています。保険料額や免除の承認基準は年度によって変わります。実際の手続きと金額は、お住まいの市区町村の国民年金担当窓口または年金事務所でご確認ください。





