退職金は「いつ振り込まれるのか」「自分はいくらなのか」「そもそもうちの会社にあるのか」の3つが分からないまま辞める人がとても多いお金です。給与と違って法律で支払いが義務づけられた制度ではなく、会社の規程で決まるので、会社ごとに答えが違います。
人事・労務として10年、退職金の計算と支払いを担当し、退職支援の会社で1,000件以上の相談を受けてきた立場から、支払い時期の目安、相場(国の統計)、計算のしくみ、税金、退職金がない会社の確認方法、もらい損ねないための注意点を整理します。
・相場:厚生労働省の統計(学歴・退職理由別)と中小企業の目安
・計算方法:基本給連動・ポイント制・定額制・自己都合の減額
・税金:退職所得控除・2分の1課税・「受給に関する申告書」を出さないと20.42%
・退職金がない会社の確認方法と、規程があるのに払われないときの対処
・損しないための注意点(勤続年数の区切り・退職理由・申告書・DCの移換期限)
退職金はいつもらえる?|制度の種類で時期が違う
| 制度 | 支払い時期の目安 | 手続き |
|---|---|---|
| 会社の退職一時金(自社積立) | 就業規則・退職金規程に書かれた時期。「退職後1〜2か月以内」「退職月の翌月給与日」などが多い | 基本的に会社が計算して振り込む。「退職所得の受給に関する申告書」を会社に提出 |
| 中小企業退職金共済(中退共) | 請求を受け付けてから1か月〜2か月半程度(中退共の案内)。書類不備があるとさらにかかる | 会社から請求書をもらい、本人が中退共に直接請求。振込先は本人の口座 |
| 確定給付企業年金(DB) | 規約による。一時金か年金かを本人が選ぶ場合がある | 会社・基金の案内に従って請求 |
| 企業型確定拠出年金(DC) | 原則60歳まで受け取れない。退職後は転職先の企業型DCかiDeCoへ資産を移す | 退職後6か月以内に移換手続き。放置すると国民年金基金連合会に自動移換され、手数料がかかり運用も止まる |
法律上の支払い期限
労働基準法23条は、退職した労働者から請求があれば7日以内に賃金を支払うと定めていますが、退職金については就業規則などで支払時期が定められていれば、その時期に支払えばよいとされています(行政通達)。だから「退職して1か月たつのに入らない」のは、規程どおりなら違法ではありません。まず規程の支払時期を確認してください。
退職金の相場はいくら?|国の統計と中小企業の目安
厚生労働省「就労条件総合調査」(令和5年)
勤続20年以上かつ45歳以上の退職者1人あたりの平均退職給付額(退職一時金+退職年金の合計)です。
| 学歴・職種 | 定年 | 会社都合 | 自己都合 | 早期優遇 |
|---|---|---|---|---|
| 大学・大学院卒(管理・事務・技術職) | 1,896万円 | 1,738万円 | 1,441万円 | 2,266万円 |
| 高校卒(管理・事務・技術職) | 1,682万円 | 1,385万円 | 1,280万円 | 2,432万円 |
| 高校卒(現業職) | 1,183万円 | 737万円 | 921万円 | 2,146万円 |
| 退職給付制度がある企業の割合(同調査) | |
|---|---|
| 全体 | 74.9% |
| 1,000人以上 | 90.1% |
| 300〜999人 | 88.8% |
| 100〜299人 | 84.7% |
| 30〜99人 | 70.1% |
制度がある企業のうち、退職一時金のみが69.0%、退職年金のみが9.6%、併用が21.4%です。「退職金=一時金でまとめてもらう」が今も多数派です。
中小企業の目安(東京都の調査)
上の統計は勤続20年以上の人が対象なので、若い人や中小企業の人にはそのまま当てはまりません。東京都産業労働局が中小企業を対象に集計している「モデル退職金」(中退共のサイトで紹介)では、大学卒・勤続5年の自己都合退職で42〜45万円程度、勤続20年で自己都合310〜390万円・会社都合360〜500万円程度、勤続30年で580〜1,230万円程度と、企業規模によって幅があります。
退職金の計算方法|自分の額を出す4つの方式
| 方式 | 計算のしくみ | 確認するもの |
|---|---|---|
| 基本給連動型(最も多い) | 退職時の基本給 × 勤続年数ごとの支給率 × 退職事由係数 | 退職金規程の「支給率表」と「自己都合の係数」 |
| ポイント制 | 等級・役職・勤続ごとに毎年ポイントが貯まり、ポイント合計 × 単価 | 毎年の通知書やポイント一覧 |
| 定額制 | 勤続年数だけで金額が決まる(例:勤続10年○万円) | 規程の一覧表 |
| 別テーブル方式 | 基本給とは別の「退職金算定基礎額」に支給率をかける | 算定基礎額の表 |
自己都合は減額されるのが普通
ほとんどの規程で、自己都合退職は会社都合・定年より低い係数が設定されています。また勤続3年未満は不支給とする規程も珍しくありません。国の統計でも、大卒の自己都合は定年より約450万円低くなっています。
退職金の税金|控除が大きく、多くの人はほぼかからない
退職金は「退職所得」として給与と分けて課税され、退職所得控除と2分の1課税という大きな優遇があります(国税庁タックスアンサー No.1420)。
| 勤続年数 | 退職所得控除額 |
|---|---|
| 20年以下 | 40万円 × 勤続年数(80万円に満たない場合は80万円) |
| 20年超 | 800万円 + 70万円 ×(勤続年数 − 20年) |
課税対象の「退職所得」は、(退職金 − 退職所得控除額)× 1/2 です。勤続年数の1年未満の端数は切り上げます。
| 例 | 控除額 | 退職所得(課税対象) | 税金の目安 |
|---|---|---|---|
| 勤続10年・退職金300万円 | 400万円 | 0円 | 所得税・住民税ともに0 |
| 勤続15年・退職金800万円 | 600万円 | 100万円 | 所得税約5万円+住民税約10万円 |
| 勤続25年・退職金2,000万円 | 1,150万円 | 425万円 | 所得税約43万円+住民税約42.5万円 |
「退職所得の受給に関する申告書」を必ず出す
会社に「退職所得の受給に関する申告書」を提出すると、会社が上の計算で正しく源泉徴収し、原則として確定申告は不要です。提出しないと退職金の20.42%が一律で源泉徴収され、取り戻すには自分で確定申告が必要になります。人事側からすると「出し忘れ」が一番多い書類です。退職手続きの書類の束に入っているので、必ず記入して返してください。
なお退職金には社会保険料はかからず、失業保険(基本手当)の受給や扶養の判定にも影響しません(退職所得は分離課税のため)。
退職金がない会社|確認方法と「規程があるのに払われない」ときの対処
退職金制度は法律上の義務ではありません。国の統計では約4社に1社(25.1%)に制度がなく、30〜99人の企業では約3割にありません。「ない」こと自体は違法ではないので、まず自分の会社にあるかを確認します。
| 確認するもの | 見るポイント |
|---|---|
| 就業規則・退職金規程 | 「退職金」の章があるか。支給条件(勤続3年以上など)・支給率表・支払時期・懲戒解雇時の不支給規定 |
| 雇用契約書・労働条件通知書 | 「退職金の有無」欄。制度があれば記載義務がある事項(労基法15条関係) |
| 求人票・入社時の説明 | 「退職金制度あり」と書かれていたのに規程がない場合は、労働条件の相違として主張の余地 |
| 給与明細・会社の説明 | 中退共・企業年金・企業型DCに加入していないか。中退共は会社が掛金を払っていれば本人が直接請求できる |
| 退職金前払い制度 | 毎月の給与に上乗せして払う会社もある。この場合、退職時にまとまった額は出ない |
規程があるのに払われない・減らされたとき
退職金で損しないための6つの注意点
- ✅ 退職を決める前に退職金規程の支給率表を見る。勤続年数の区切り直前なら退職日をずらす
- ✅ 自己都合と会社都合で係数が違う。退職勧奨・解雇など会社側の事情があるなら「一身上の都合」で済ませない
- ✅ 「退職所得の受給に関する申告書」を必ず提出。出さないと20.42%が引かれる
- ✅ 企業型DCは退職後6か月以内に移換。放置すると自動移換で手数料と運用停止
- ✅ 中退共は本人が直接請求。会社から請求書類をもらい、本人の口座に振り込まれる
- ✅ 退職金と失業保険は併給できる。退職金があるからと失業保険の手続きを遅らせない
退職金に関するよくある質問
まとめ|退職金は「規程」を見れば全部分かる
- ✅ 支払時期は規程で決まる(退職後1〜2か月が多い)。中退共は請求から1〜2か月半。DCは60歳まで・6か月以内に移換
- ✅ 相場は大卒定年で約1,900万円・自己都合約1,440万円(勤続20年以上の平均)。中小企業・若い人は規程の支給率表で
- ✅ 計算は「基本給×支給率×退職事由係数」が主流。自己都合は減額、3年未満は不支給が多い
- ✅ 税金は退職所得控除+2分の1で軽い。申告書を出さないと20.42%源泉
- ✅ 制度がない会社は約4社に1社で違法ではない。規程があるのに払われなければ書面請求→労基署→労働審判。時効5年
退職金は「聞きにくいお金」ですが、規程は社員なら誰でも見られる書類です。辞める前に支給率表を一度見ておくだけで、退職日の決め方も、もらえる額の見通しも変わります。
※本記事は厚生労働省「令和5年就労条件総合調査」(退職給付制度の有無・平均退職給付額・制度形態)、東京都産業労働局「中小企業の賃金・退職金事情」のモデル退職金(中退共サイト掲載分)、国税庁タックスアンサーNo.1420(退職所得)、中退共「退職金は請求してから何日くらいで支給されますか」、労働基準法23条・24条・115条をもとに2026年9月時点で作成しています。税額は概算で、実際の額は勤続年数の端数処理や税率区分で変わります。退職金の有無・額・支払時期はお勤め先の規程が優先します。



