「退職理由、なんて言えばいいんだろう」。上司に切り出す場面を想像して、そこで止まっている人がとても多いです。先に結論を言うと、退職理由は「一身上の都合」で足ります。法律上、会社に本当の理由を説明する義務はありません。
ただ、実際の面談では「なぜ?」と必ず聞かれます。人事として10年、退職の面談に同席し、退職支援の会社で1,000件以上の相談を受けてきた立場から、会社側が引き止めにくい理由・引き止めやすい理由、状況別にそのまま使える例文、嘘をつくリスク、「精神的に限界」なときの伝え方まで、人事の本音ごとまとめます。
・引き止めにくい理由/引き止めやすい理由(人事の本音)
・状況別の例文:人間関係・体調不良・精神的に限界・給与・キャリア・家庭の事情・パート・理由がない
・嘘の退職理由はアリか、ばれるパターンとリスク
・切り出し方(アポの取り方・言う順番・メール例文)
・退職理由と離職票・失業保険の関係(会社都合なら「一身上の都合」と言わない)
結論|退職理由は「一身上の都合」でよい。ただし一言は用意する
| 内容 | |
|---|---|
| 法律上の義務 | ない。期間の定めのない雇用は、理由を問わず申入れから2週間で終了する(民法627条1項)。会社の承諾も理由の説明も要件ではない |
| 就業規則 | 「退職の理由を届け出る」と書かれていることはあるが、書く内容は「一身上の都合」で足りる |
| 実務 | 面談で「なぜ?」は必ず聞かれる。答えを用意していないと、その場で引き止めの材料を探られる |
会社が退職理由を聞く「本当の目的」
| 目的 | 中身 | あなたへの影響 |
|---|---|---|
| ① 引き止めの材料を探す | 「給与なら上げる」「部署を変える」と言うために、解決できる不満を探している | 会社で解決できる理由を言うと、引き止めが長引く |
| ② 離職票の離職理由を決める | 自己都合か会社都合か(失業保険の給付制限・日数に直結) | 会社都合の事情があるのに「一身上の都合」と言うと、自己都合で処理される |
| ③ 職場の改善(本音は後回し) | 退職者の声を集めて人事施策に使う | 本当の理由を言っても、あなたの退職条件が良くなるわけではない |
引き止めにくい退職理由・引き止めやすい退職理由
| 引き止めにくい理由(会社では解決できない) | 引き止めやすい理由(会社が「改善します」と言える) |
|---|---|
| 次の職場が決まっている・入社日が確定している | 給与・待遇への不満 |
| 別の業界・職種に挑戦したい(今の会社にその仕事がない) | 上司や同僚との人間関係 |
| 家庭の事情(介護・配偶者の転勤・育児) | 業務量・残業・忙しさ |
| 体調を崩していて、医師から休養を勧められている | 仕事内容が合わない(「別の部署は?」と返される) |
| 「決めたことなので」と理由を深掘りさせない | 「なんとなく」「疲れた」(改善案を出されて押し切られる) |
状況別|上司にそのまま言える退職理由の例文
いずれも「結論(辞める)→ 理由は短く → 退職日と引き継ぎの意向」の順で伝えます。理由の部分だけ差し替えてください。
人間関係が理由のとき
体調不良・精神的に限界なとき
給与・待遇が理由のとき
仕事内容・キャリアが理由のとき
家庭の事情(介護・育児・配偶者の転勤)
パート・アルバイトの場合
次の職場が決まっているとき
特に理由がない・なんとなく
嘘の退職理由はアリ?|ばれるパターンとリスク
検索でも「退職理由 嘘 おすすめ」が多いのですが、人事側から見ると、嘘は「ばれない」より「ばれても困らない」かで判断したほうがいいです。退職の効力そのものは理由が嘘でも無効になりませんが、次のリスクがあります。
| よくある嘘 | ばれる経路 | リスク |
|---|---|---|
| 親の介護で地元に帰る | 同僚のSNS・転職先の同業ネットワーク・前職照会 | 在籍確認や照会で信用を失う。同業なら話が伝わりやすい |
| 結婚・引っ越し | 住所変更の手続き(源泉徴収票の送付先) | 事務手続きで矛盾が出る |
| 病気・体調不良(事実でない) | 診断書の提出を求められる/離職票の理由欄 | 会社都合や特定理由離職者の判定に虚偽が絡むと不正受給の問題になる |
| 起業する | 転職先での勤務がSNS等で分かる | 嘘と分かった時点で「あの人は嘘をつく人」として残る |
| 転職先が決まった(実際は未定) | 入社日を聞かれる・退職日の交渉 | 退職日の根拠が崩れ、引き止めが再開する |
「精神的に限界」「体調不良」で辞めるときの注意点
体調や心の不調が理由の退職は、伝え方だけでなくお金と制度の順番で結果が大きく変わります。
| 確認すること | 内容 | 関連 |
|---|---|---|
| 休職という選択肢 | 就業規則に休職制度があれば、在職のまま傷病手当金(給与の約3分の2)を受けながら休める。退職後も条件を満たせば継続受給できる | 傷病手当金 |
| 診断書の有無 | 医師の診断書があれば、離職票で「正当な理由のある自己都合」(特定理由離職者)と判定されることがあり、失業保険の給付制限がつかない | 特定理由離職者 |
| 原因が職場にあるか | パワハラ・長時間労働が原因なら、証拠を残して会社都合(特定受給資格者)を主張できる。「一身上の都合」と伝えると自己都合で処理される | 会社都合 |
| 働ける状態か | 当面働けないなら失業保険は受給期間の延長を申請し、傷病手当金を優先 | 受給期間延長 |
切り出し方|アポの取り方・言う順番・タイミング
「○○部長
お疲れ様です。○○です。ご相談したいことがあり、今週中に15分ほどお時間をいただけないでしょうか。ご都合のよい日時をお知らせいただけますと幸いです。」
退職の話だと分かる書き方にしないのがポイントです。
伝える時期は、就業規則の期限(1か月前など)より前、退職日の1〜1.5か月前が目安です。法律上は2週間前でも辞められますが、有給消化や引き継ぎの調整がしやすくなります。
退職理由と離職票・失業保険の関係|会社都合なら「一身上の都合」と言わない
ここは人事側として一番伝えたい点です。面談で言った退職理由は、そのまま離職票の「離職理由」欄に反映されることが多く、失業保険の給付制限(自己都合は原則1か月)と所定給付日数を左右します。
| あなたの事情 | 面談で言う理由 | 離職票の扱い |
|---|---|---|
| 転職・キャリアチェンジ・なんとなく | 一身上の都合でよい | 自己都合(給付制限あり) |
| 退職勧奨を受けた | 「勧奨に応じて退職する」と明確に言う。「一身上の都合」とは言わない | 特定受給資格者(会社都合) |
| パワハラ・長時間労働・賃金未払い | 事実を伝え、証拠を残す。退職届の理由も事実で | 証拠があれば特定受給資格者 |
| 病気・家族の介護・配偶者の転勤 | 事実を伝える。診断書などを用意 | 特定理由離職者(給付制限なし) |
| 契約更新を希望したのに更新されなかった | 「更新を希望していた」と記録に残す | 特定理由離職者 |
どうしても言えないときは
「理由を聞かれても答えられない」「上司の顔を見ると言えなくなる」という相談は本当に多いです。そういう人には、次の順番を勧めています。
- ✅ メールで退職の意思と退職日を送る(口頭より先に文面で伝えてよい)
- ✅ 上司を飛ばして人事部や上長に伝える(直属の上司に言う義務はない)
- ✅ 退職届を郵送する(内容証明なら到達の証明が残る)
- ✅ それでも無理なら退職代行に依頼する。理由は業者が「一身上の都合」として伝えるので、あなたが説明する場面はなくなる
退職理由の伝え方に関するよくある質問
まとめ|「一身上の都合」+会社で解決できない一言
- ✅ 退職理由を説明する義務はない。「一身上の都合」で足りる(民法627条)
- ✅ 会社が理由を聞くのは引き止めの材料を探すため。会社で解決できる理由(給与・人間関係・忙しさ)は、そのまま言わない
- ✅ 状況別の例文は「結論→短い理由→退職日と引き継ぎ」の順。個人名・不満の詳細は出さない
- ✅ 嘘ではなく「ぼかし」を使う。作り話は転職先や事務手続きでばれる
- ✅ 会社都合・病気・介護など、給付に関わる事情があるなら「一身上の都合」と言わない。離職票の理由欄を確認し、違えば異議を出す
- ✅ 言えないならメール・人事部・郵送・退職代行の順で、伝える手段を変えてよい
面談で退職理由を上手に言えた人と、言えなかった人で、退職の結果はほとんど変わりません。変わるのは「引き止めにかかる時間」と「離職票の理由」だけです。ここだけ押さえて、あとは「決めたことなので」で十分です。
※本記事は民法627条、雇用保険の離職理由の区分(特定受給資格者・特定理由離職者)に関するハローワークの案内と、著者の人事・労務実務(退職面談の同席・離職票の作成)をもとに2026年9月時点で作成しています。離職理由の最終的な判定はハローワークが行います。体調に関する判断は医師にご相談ください。



